前置き
お勧めされたので、 大学生からの「取材学」 他人とつながるコミュニケーション力の育て方という本を読みました。
コミュニケーション能力笑と馬鹿にされがちなところがある、コミュニケーション能力ですが、これは実のところ万物に通じる最も汎用的な能力の一つです。 わざわざこのページをみてくださるような酔狂な方には、いうまでもないことかもしれませんが、人生で一番大切なことは伝えることです。
これは世間で広告屋さんが蔓延っていることからも理解できると思います。何かいいものがあってもみてもらう機会、伝える力がなければ存在しないのと一緒なのです。例えば、同じことを発表するにしても面白いプレゼンとつまらないプレゼンがあるものです。
私はこのことに就職活動を通じて身を持って分からせられました。自分の実績ややりたいこと、夢や目標、これらは全て持っているだけでは意味がなく達成した上で、誰かに伝える必要があるのです。
まあ、それはともかくとして。本書は、取材を通して「伝えること」をメインテーマに据えています。不思議に思うかもしれませんが「聞くこと」ではないです。
取材を通して、自分が感じたもの・得たものを伝えていく力・技能について書いた本だと思っています。でも、あまり特別なことは書いてないようにも思います。相手に誠実に、実際に会って向き合うことが大切など、他者を少しでも理解するための技術...というか筆者が心がけているノウハウ的なものが書いてあります。
こう書かれるとよくある薄っぺらい意識高い系の本に思えるかもしれませんが、中身はかなり重いものです。
それは、筆者の持つ来歴からくるものでしょう。筆者はノンフィクションライターとして、世間を騒がせた多くの事件「オウム真理教事件」や「女子高生コンクリート詰め殺人事件」などと直接関わってきています。そうした人の口から語られる「取材学」についてのノウハウ、というより経験は軽いものでは決してありません。
筆者の書いた本の序章、第一章、第二章部分が下のリンクから読めます。これを少し読んでみれば、この人の口から出る言葉が決してコミュニケーション笑などという軽いものではないということがわかるでしょう。
【連載】17歳の殺人者 第1回 目次
暗い話はここまでにして、この本で僕は2つ特に面白いなと思った点があります。
それは、以下の二点についてです。
- 入れ替え可能性
- マイ目利き
入れ替え可能性
入れ替え可能性とは、これをやるのは自身じゃなくていいんじゃないか、もっと他の人なら自分よりうまくやれるんじゃないだろうか、自分は他人と入れ替えられるのではないかという考えのことです。
これを読んでくださる皆さんは、こんなことを思うことはあるのでしょうか?この気持ちが万人に共通なものなのか私には判別がつきませんが、僕はよくこのことについて考えます。
研究をしているから、新規性についてつい考えてしまうためなのでしょうか、最近は特によく考えます。自分がやっている研究なんてもっと強い人がやったらすぐできちゃうような自明なものなんだろうなと(そしてその感覚は間違っていないように思える)よく考えます。
筆者は何人もいる取材者の一人に過ぎない身でありながら、何を持って自分を他と違うものとするのかという問いに、紛争地帯で実際に体験した経験からこれを今伝えられるのは自分しかいない、そんなものがあると考えるようになったそうです。
翻って自分はどうでしょうか、正直上位互換がたくさんいるように思えます。まだしばらくはこの入れ替え可能性に悩まされることになるのでしょうが、今この瞬間にこんなことをやっている(ある種暇な)人は自分しかいないのだろうという気持ちはあり、これは自分にとって一つ救いとなる拠り所です。研究で言うと、割とニッチなブルーオーシャンを、さらにニッチな角度から攻めている(と思っている)ので新規性自体にはことかかず、ありがたい限りです。
しかし、自分の上位互換がいるという考えはなかなか折り合いをつけるのが難しい問題です。自分は現在は、自分のやりたいことにとにかく目を向けることで、あまり気にしないようにしていますが、やはりこれは定期的に虚無感と共に自分に襲いかかってくる難問ではあります。
まだ、自分の頭のプールに考えが浮かんでいる状態止まりで、うまく言語化しきれていないので変な文になってしまいました。ここでやめておきます。
マイ目利き
これはたくさんの情報に溢れ、自分にとって必要な情報を見落としがちな現代において、ある分野について詳しい、自分にとってのマイ目利きを知っておき、動向をチェックしておくことで自身も最新の情報を得られるといったような話です。
これと同じような効果を僕はTwitterに期待していてその点で面白いなと思いました。
Twitter上で情報発信をしてくれている、もしくはただ日常を流しているだけのアカウントでも、その日常に触れることで先端のトピックに触れることができます。
Twitterいいですよね(は?)
本の中身についてちょっとだけ
最初の方だけ本についてメモを取りながら読んでいたので、これを捨ててしまうのももったいないので学んだことを書き残しておきます。
相手の話にピリオドを打たない
- インタビューは一方的に行われるものではなく、行きつ戻りつしながら、聞かれる側にとっても驚きを共有する豊かな場となり得る。
- まくらを投げる。
- 「要するに」といった整序された、平面的な言葉で語られることは、本質的な話を避けるために、不安からそういうことを言う。
- ラベリングをしない。
- 型にはまった結論を導き出すことによって、聞き手がカタルシスを得ようとしない。
「知らないこと」より「知ろうとしないこと」が恥ずかしい
- 自分が知らないものは、知らないときちんと認めて知ろうとする。
知らないものを知っているフリをするのは相手にも失礼
反対意見を聞き出す知的好奇心
- リトマス試験紙のようなものに相手の言葉を浸して、自分と同じだと安心していた(この表現好き)
- 自分と反対する意見を聞くことはストレスになる。
筆者は、最初は反対意見は、それを主張する権利にも反対だという考えを持っていた時期があったようだが、討論番組に出て討論した後、反対意見の人と飲み会や雑談をするといった経験をしたことで、人間には全く別の面があり、その面白さに気付いたとのこと。 意外な一面や、逆から見た物事の捉え方、見方を見た時の知的興奮を面白く感じれるようになったらしい。
話を聴く「準備」が大切
準備
インタビューの目的と、何をテーマに話どういうトピックを軸に記事にするのか。インタビュー時間や、原稿量についても確認が必要。
下調べ
- インタビューテーマと、相手に対しての事前知識
- インタビュー場所にいく自分を安心させるための下準備
- 自分を納得させるため、気持ちに踏ん切りをつけるための行為
- 「相手に何を聴くか」も重要だが「どういう自分をそこにおくか」も重要
- 準備のしすぎもそれはそれで問題。
- ある程度手の内を見せる、「こういうことを聞きたいんですよと」枠を見せる
- 「私は知らないけど、あなたが知っていることを教えてください」というのが根底にあって、答え合わせ的なインタビュー、自己満足にはしたくない。
- 自意識=「自分のありようについてどう考えているか」
「聞いて欲しいオーラ」を見逃さない
感想
本全体としての感想は、取材・コミュニケーションとは、一方的に相手の話を聞くことではなく、自分から情報を与えていくことで、相互に理解を深めていく中で、お互いに今まで知らなかった発見をする場である、という考え方が根底にあると僕は受け取りました。そのためには、僕が普段から大事にしている相手に真摯な、誠実な態度で向き合うという考え方が大切であるとも書いてあります。
Team GeeksでいうHRT(ハート(HEART))の精神と似ているなと感じました。謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)。結局のところ、人と人とのインタラクションにおいて最も重要なのはこの3つに尽きるのではないでしょうか?
とこんな感じでこの本の感想をまとめたいと思います。
おまけに。Team Geeksもかなりいい本なのでお勧めです。ピープルウェアとかのおもしろエッセイ本と比べてかなり実践的な本だと思います。(別にピープルウェアをディスってるわけではないですし、トム・デマルコさんの本は好きです。)